屈折率方式TDS計について
この記事では、コーヒー抽出評価で広く使われている 屈折率方式TDS計 について、
- 屈折率方式とは何を測る原理なのか
- 装置としてどのように実装されているのか
- 校正(キャリブレーション)をどう考え、どう扱うべきか
という3点に絞って整理します。
TDSという指標の一般論や、他方式(乾燥重量法・電気伝導度法など)との比較は扱いません。 本記事はあくまで、屈折率方式そのものを理解して使うための整理です。
屈折率方式とは何を測っているのか
屈折率方式TDS計が直接測定しているのは、名前の通り 屈折率 です。
屈折率は、光が物質中を進むときの速度変化を表す物性値で、 溶液中に溶けている物質量が増えると、一般に屈折率は増加します。
コーヒー抽出液では、
- 糖類
- 有機酸
- カフェイン
- フェノール類
- 無機塩類
といった 水に溶けた非揮発性成分の総体 が、 分離されることなく「まとめて」屈折率変化として現れます。
重要なのは、
屈折率方式は成分分析ではなく、溶液全体の光学的応答を見ている
という点です。
TDS値は、その屈折率をもとに換算された 派生指標 であり、 屈折率そのものが一次情報になります。
測定原理:臨界角法
コーヒー用屈折率計の多くは 臨界角法 を採用しています。
原理は比較的シンプルです。
- 高屈折率のプリズム内部から、試料側に向けて光を入射
- 試料の屈折率に応じて、全反射と屈折の境界角(臨界角)が変化
- その境界位置を受光素子で検出
- 臨界角から屈折率を算出
この方式の特徴は、
- 光路が短く安定している
- 少量試料で測定できる
- 濁りや微粒子の影響を受けにくい
といった点にあります。
装置としての構成
一般的な屈折率方式TDS計は、以下の要素で構成されています。
- 単色LED光源(可視〜近赤外)
- 高屈折率プリズム
- 受光素子(フォトダイオード等)
- 温度センサ
- 演算回路(マイコン)
ユーザーが操作しているのは「TDS計」ですが、 装置内部では
光学測定 → 屈折率算出 → 換算式によるTDS表示
という処理が行われています。
波長依存性と換算の前提
屈折率は 測定波長に依存 する物性値です。
- 古典的な屈折率定義:589 nm(ナトリウムD線)
- デジタル屈折率計:装置固有のLED波長
コーヒー用TDS計では、
特定波長 × コーヒー抽出液
という前提条件で校正・換算が行われています。
そのため、
- 機種が異なる
- 換算ロジックが異なる
場合に、TDS値を厳密に比較する意味は限定的です。
校正(キャリブレーション)の考え方
屈折率方式TDS計では、校正の扱い方が非常に重要になります。
ゼロ校正(水校正)
多くの機器では、 蒸留水・精製水による ゼロ校正 が基本です。
留意点としては、
- 校正水と測定試料の温度差をできるだけ小さくする
- プリズム表面の汚れ・油分を完全に除去する
- 気泡が付着していないことを確認する
といった点が挙げられます。
ATC(自動温度補正)があるからといって、 温度差を無視してよいわけではありません。
標準液校正の位置づけ
一部の屈折率計では、 スクロース溶液などの 既知濃度標準液 による校正が可能です。
ただし、
- スクロース溶液とコーヒー抽出液では成分組成が異なる
- 屈折率への寄与の仕方も異なる
という前提があります。
したがって、
標準液校正は装置の健全性確認には有効だが、 コーヒーTDSの絶対値を保証するものではない
と捉えるのが妥当です。
校正頻度と実験での扱い
実験用途では、
- 測定前に必ずゼロ校正
- 室温変化や長時間測定では途中再校正
を基本とするのが無難です。
重要なのは、
同一装置・同一校正手順・同一環境で比較する
という一貫性です。
まとめ
- 屈折率方式TDS計は、光学的に屈折率を測る装置
- TDSは屈折率から換算された比較指標
- 波長・温度・校正条件が測定値に強く影響する
- 校正は「真値」よりも「比較の一貫性」を重視すべき
屈折率方式TDS計は、 原理と前提条件を理解したうえで使うことで、 コーヒー抽出を定量的に扱うための信頼できる道具になります。
それではまた!
他のTDSに関する記事はこちらを参照↓
TDS(Total Dissolved Solids)とは、TDSについて深堀り①
本記事で使用している器具についてはこちらを参照 計測器具・測定環境


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