抽出温度がTDSとpHに与える影響
— 同一条件下での温度差実験 —
前回の記事では、
ブリューレシオと挽き目を変えた条件下で、TDS・pH・残液TDSを測定しました。
今回はそれとほぼ同一の条件で、
抽出温度のみを変えた実験を行っています。
実験の位置づけ
まず前提として整理しておきます。
今回の実験では、
- 前回と同じ豆
- 同じ器具
- 同じ抽出手順(5回投入、2分30秒で打ち切り)
を採用していますが、
TDS・pHの絶対値は前回と完全には一致していません。
これは、
- 屈折率方式TDS計の校正条件
- pH計のドリフト
- 室温・測定タイミング差
などが影響している可能性があります。
したがって本記事では、
絶対値の比較ではなく、
今回の実験系の中での相対比較
として結果を解釈します。
この前提に立てば、データとしては十分に意味を持つと考えています。
実験条件
共通条件
- 豆:スターバックス クリスマスブレンド
- 豆量:12 g
- ミル:TIMEMORE C2
- ドリッパー:HARIO V60
- 抽出時間:2分30秒(5回投入、各30秒)
変数
- 抽出温度:93 ℃ / 83 ℃
- Brew ratio:15 / 18
- ミルクリック数:18 / 24
実験結果
| 水準No. | Brew ratio | ミルクリック数 | 抽出温度 (℃) | TDS (%) | 屈折率 | pH |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 15 | 24 | 93 | 1.48 | 1.33559 | 5.04 |
| 2 | 15 | 24 | 83 | 1.42 | 1.33549 | 5.13 |
| 3 | 15 | 18 | 83 | 1.67 | 1.33544 | 5.13 |
| 4 | 18 | 18 | 83 | 1.44 | 1.33554 | 5.11 |
| 5 | 15 | 18 | 93 | 1.71 | 1.33601 | 5.02 |
今回のデータから、特に注目したいのは pHの挙動 です。
抽出温度を下げる(93℃ → 83℃)とpHがやや高めに出る傾向があるという一貫した動きが見られました。
一方で、TDSは条件によって上下するものの温度だけで単純に増減する、という挙動ではないという点も確認できます。
こちらは前回の実験結果と同様の挙動です。(冒頭で触れたように絶対値は整合しません。)
抽出温度とpHの関係についての解釈
pHは酸の「量」ではなく、**酸の強さ(H⁺濃度)**を示す指標です。
pHは1~14の値で、pHが7に近いと中性、pHが小さい値を示すほど強酸、pHが大きい値を示すほど強アルカリ、です。
(pHに関する詳細はこちらを参照 pH(Potential Hydrogen)とは)
今回の結果から読み取れるのは、
抽出温度を下げると、pHが大きくなっているため、
酸味に寄与する成分が相対的に抽出されにくくなる可能性がある
という点です。
言い換えると、
- 高温抽出:
酸味成分を含め、反応性の高い成分が出やすい - 低温抽出:
抽出が穏やかになり、酸の立ち上がりが抑えられる
という、経験則として知られている話と
pHの数値変化が同じ方向を向いている、という印象です。
もちろん、
- 酸の種類
- バッファリング成分
- 他成分との相互作用
までは、このデータから直接は分かりません。
それでも、
「温度を下げると酸味が丸く感じられる」
という感覚的な表現に対して、
pHという数値が一つの裏付けを与えている
と捉えることはできそうです。
TDSについての補足
TDSについては、同一の挽き目とBrew ratioの条件において、温度を下げるとTDSはやや低めの値を示していたものの、
- 挽き目
- Brew ratio
の影響が支配的であるという結果でした。
- 2分30秒で抽出を打ち切っている
- 抽出フェーズの途中を見ている
という実験設計の影響も大きいと考えられます。
この点は、前回扱った残液TDSとも絡めて、別途考察する余地がありそうです。
参考までに今回の残液TDSの結果をここに示しておきます。
| 水準No. | 残液TDS | 屈折率 |
|---|---|---|
| 1 | 0.85% | 1.33449 |
| 2 | 0.89% | 1.33456 |
| 3 | 0.81% | 1.33443 |
| 4 | 0.70% | 1.33427 |
| 5 | 0.84% | 1.33447 |
まとめ
今回の温度差実験から得られた整理は、以下の通りです。
- 前回と絶対値がずれており、校正法は検討の余地あり
- ただし、今回の実験系内での相対比較は有効
- 抽出温度を下げると、pHは高めに出る傾向がある
- これは「酸味成分が抽出されにくくなる」と解釈でき、官能評価による経験則として言われている、温度を下げると抽出が穏やかになり酸の立ち上がりが抑えられる、という挙動と合致
- 温度が低いとTDSは低くなる要因とはなるものの、温度単独では単純に語れない
抽出温度だけで味を決定的には決められませんが、
少なくとも 酸の出方に対しては明確に作用する操作因子
であることは、数値としても確認できました。
次は、この結果を踏まえて、
- 抽出時間を変えた場合
- 落ち切りまで抽出した場合
などと組み合わせて考えてみるのも面白そうです。
それではまた!
関連する実験についてはこちらを参照 抽出実験① ~ブリューレシオと挽き目の影響~
使用した器具についてはこちらを参照 使用器具・抽出環境、計測器具・測定環境
計測項目に関する内容はこちらを参照 計測について


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