陶器ドリッパーの比熱を測ってみた
ハンドドリップにおいて「ドリッパーの予熱は重要」と言われることは多いですが、
その理由についてどの程度、どのくらいのスケールで効いているのかについて、
定量的に語られることはあまり多くありません。
以前の記事では、サーモグラフィーを用いて抽出中の注ぎ湯温度の低下を観測しました。
その関連という位置づけも含めて今回は、
ドリッパーそのものが、どれだけの熱を奪う存在なのか
を、**材質(陶器 vs 樹脂)**という観点から整理するため、
まずは陶器製ドリッパーの比熱を簡易的に測定してみました。
なぜ比熱を測るのか
ドリッパーの材質が違えば、
- 予熱に必要な熱量
- 予熱しなかった場合にドリッパー内部から奪う熱量
- 抽出開始直後の温度低下
- 一度温まった後の冷めにくさ
が変わるはずです。
原理的に考えてこれらはすべて、
- 比熱
- 質量
- 熱容量(比熱 × 質量)
に大きく依存することになります。
材質が陶器としか書いて無くて不明瞭なので、こちらは実測してみました。
実験方法(概要)
方法は非常にシンプルです。
- 陶器製ドリッパーの初期温度を把握
- 一定量の湯にドリッパーを投入
- 十分撹拌して熱平衡に近づける
- 水の温度低下量(およびドリッパーの上昇温度)から、ドリッパーが吸収した熱量を見積もる
なお、1分間放置した際の**水単体での温度低下(気化熱・放熱)**も別途測定し、
その分を差し引いて評価しています。
実験条件
- 室温:20 ℃
- 湿度:40 %RH
試料
- ドリッパー:カリタ 陶器製ドリッパー
- 水(水道水):1899.3 g → 1分後 1893.3 g
- 蒸発を考慮し、平均値 1896.3 g を採用

実測データ
| 項目 | ドリッパー | 水 |
|---|---|---|
| 重量 [g] | 368.2 | 1896.3 |
| 初期温度 [℃] | 17.6 | 80.0 |
| 投入1分後温度 [℃] | 75.6 | 75.6 |
| 未投入時1分後温度 [℃] | ― | 78.6 |
| ドリッパー投入による温度変化 [℃] | +58.0 | −3.0 |
※ 水単体で1分後に 1.4 ℃ 低下しているため、
ドリッパー投入による実質的な水温低下は 3.0 ℃ と評価しています。
比熱の算出
考え方はエネルギー収支です。
m_water × c_water × ΔT_water
= m_dripper × c_dripper × ΔT_dripper
ここで、
- 水の比熱:4.2 J/(g・K)
- 水の温度低下:3.0 K
- ドリッパーの温度上昇:58 K
数値を代入すると、
1896.3 × 4.2 × 3.0
= 368.2 × c × 58
これを解くと、
c ≒ 1.1 J/(g・K)
結果の妥当性
一般的に知られている陶器の比熱は 約1 J/(g・K) 程度とされており、
今回得られた値はその範囲内に収まっています。
厳密な物性測定ではありませんが、
オーダー感の確認としては十分妥当な結果と判断しました。
樹脂製ドリッパーとの比較
次に、よく使われる樹脂製ドリッパーとの比較を考えます。
- 材質:AS樹脂
- 比熱:約 1.4 J/(g・K)
- 本体重量:約 68 g
熱容量の比較
- 陶器製:
368.2 × 1.1 ≒ 405 J/K - 樹脂製:
68 × 1.4 ≒ 95 J/K
👉 陶器製ドリッパーの熱容量は約4.3倍
この結果から言えること
① 予熱に必要な熱量
陶器製ドリッパーは、
- 同じ温度まで温めるのに
樹脂製の約4倍の熱量が必要
つまり、
「なんとなく軽く湯通し」だと陶器製では予熱が不十分な可能性があります。
*また、予熱をしていない場合の影響も大きいことになります。
② 一度温まれば冷めにくい
逆に言えば、
- 十分に予熱してしまえば
抽出中は温度的に非常に安定
これは、
抽出初期の温度ブレを嫌う条件では大きなメリットになります。
まとめ
- 陶器製ドリッパーの比熱は 約1.1 J/(g・K)
- 質量が大きいため、熱容量は樹脂製の 約4.3倍
- 陶器製は
- 予熱不足だと温度を奪いやすい
- しっかり温めれば非常に安定
ハンドドリップにおいて温度条件をどれだけ安定して作れるかという観点でのドリッパーの材質差の影響について定量的に見積もることができました。
*厳密に言うと熱伝導率や熱伝達の議論をしていないのでやや不十分かもしれませんが・・・。
次は、実際の予熱時の挙動などについても調査してみたいと思います。
それではまた!
使用したドリッパーはこちら




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