― 陶器と樹脂、材質が違うと予熱時のドリッパー温度はどれくらい違うのか ―
はじめに|なぜペーパーリンス時の温度を測ったのか
前回の記事では、
陶器製ドリッパーと樹脂製ドリッパーの比熱・熱容量の違いを定量的に整理しました。
理論的には、
- 陶器製ドリッパーは熱容量が大きく、
十分に予熱しないと抽出中に湯温を奪いやすい - 樹脂製ドリッパーは軽量で、比較的少ない熱量でも温まりやすい
ということになります。
しかし実際のハンドドリップでは、
ペーパーリンスでどの程度ドリッパーが温まっているのかは、
あまり定量的に語られていません。
そこで今回は、
ペーパーリンス時に投入する湯量によって、
ドリッパーの温度はどこまで上がるのか
それは材質によってどの程度違うのか
を実測で確認してみました。
実験条件
初期条件
- ドリッパー初期温度:17.6℃(室温)
- ドリッパー:カリタ102サイズ(陶器、樹脂)
- 使用湯温:ほぼ100℃(沸騰直後)
- 主な温度測定位置:ドリッパー側面(外表面)
比較対象
| 材質 | 想定重量 |
|---|---|
| 陶器製ドリッパー | 約368g |
| 樹脂製ドリッパー(AS樹脂) | 約68g |
実測結果|投入湯量とドリッパー温度
ペーパーリンス時の温度上昇(側面温度)
| 材質 | 湯量300g | 湯量500g |
|---|---|---|
| 陶器製 | 約65℃ | 約82℃ |
| 樹脂製 | 約78℃ | 約86℃ |
同じ湯量を投入しても、
- 陶器製は温度の立ち上がりが遅い
- 樹脂製は少量でも高温に達しやすい
という傾向が明確に現れています。
また、ケトル内の湯温も樹脂製ドリッパーのほうが高い傾向が見られます。


理論計算との比較|理想条件ではどうなるか
ここで、
「もしドリッパー容量分(約250ml)を100℃のお湯で満たし、
すべてが完全に熱交換したらどうなるか」
を簡単に計算してみると以下のようになります。
*ドリッパーの物性値については前回記事を参照 ドリッパーの予熱時に材質の影響は?
想定条件
- 水:250g(比熱 4.2 J/(g·K))
- 初期温度差:100℃ → 17.6℃
- 比熱:
- 陶器:1.1 J/(g·K)
- 樹脂(AS):約1.4 J/(g·K)
計算結果(概算)
| 材質 | 理論的に到達可能な温度 |
|---|---|
| 陶器製 | 約77℃ |
| 樹脂製 | 約93℃ |
つまり理想状態では、
- 樹脂製ドリッパーはかなり高温まで予熱可能
- 陶器製ドリッパーは同じ条件でも温度が抑えられる
はずです。
実測とのズレ|なぜ理論通りにならないのか
実測値を見ると、
- 陶器:500g投入でも約82℃
- 樹脂:500g投入で約86℃
と、理論値より低めに出ています。
これは主に以下の要因によると考えられます。
- 湯がドリッパー内部を通過してすぐ抜ける
- 蒸発による熱損失
- ドリッパー全体が均一に加熱されていない
- ペーパーへの熱吸収
- ドリッパーと外気の熱交換
特にペーパーリンスでは、
ドリッパーを十分に加熱せず熱を持ったまま通過する分が多いため、
理想的な熱交換にはなりにくいようです。
考察|陶器ドリッパーは想像以上に冷えやすい?
今回の結果から示唆されるのは、
- 一般的なペーパーリンス量(数百g)では
陶器ドリッパーは十分に予熱されない可能性がある - 特に冬場や低温環境では、
ドリッパーに熱を奪われて実質的な抽出温度が想定より低くなる可能性がある
ということで予熱の仕方には注意が必要かもしれません。
一方、樹脂製ドリッパーは、
- 比較的少ない湯量でも高温に達しやすい
ということが確認できました。
*ちなみに、サーモグラフィーでの測定温度の信頼性についてですが、沸騰させたときのケトル内の湯温が100℃前後を示していたので大丈夫だと思います。

まとめ
- ペーパーリンス時のドリッパー温度は、材質によって大きく異なる
- 同じ湯量でも、陶器製は温度上昇が緩やか
- 理論計算と実測の差から、
ペーパーリンスでは想定より予熱が進行しない - 陶器製ドリッパーでは、特に低温環境では、
ペーパーリンスでは予熱が不十分でドリッパー内での抽出温度が想定より低くなっている可能性がある
味に対してどのような影響を及ぼすのか?という点までは精査できていませんが、このような現象が起こるということを知っておくとドリッパーを変えて味の変化を感じたときに、その原因を把握して対策につなげられるかと思います。
また何かの機会に抽出への影響といった点についても評価してみたいと思います。
それではまた!
使用したサーモグラフィーはこちら



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